出家生活のほとんどを森の修行寺で過ごしていたこともあって、タイの冠婚葬祭の儀式に触れる機会は、ほんのわずかしかありませんでした。
それゆえ、タイのお葬式については、あまり詳しくありません。
しかし、一度だけ、お坊さんとしてお葬式に参列したことがあります。
なかでも、特に印象に残っているのが、日本で言うところの「散骨」です。
散骨は、チェンマイで参列したお葬式の時に1回、バンコクで1回立ち会ったことがあります。
タイで立ち会ったこの2回の散骨は、今も鮮明に私の記憶に残っています。
まず、チェンマイで立ち会った散骨は、葬儀が終わって、遺体が火葬されてすぐに行われました。
日本人なら驚いてしまうような散骨方法で、よく覚えています。
ロケット花火の筒の中に遺骨を入れて、そのまま打ち上げて、大空に散骨するというものです。
・・・火葬が終わりました。
遺骨が取り出されました。
ここまでは、日本と変わりません。
骨壷に収骨するのかと思いきや、なんと遺骨をロケット花火の筒の中に入れ始めました。
一体、何をするのだろうかと不思議そうに見ていると・・・
「離れていろよ。」
と、先輩のお坊さんから声がかかりました。
すると、打ち上げられました。
「シュッッッーーーッ」
一瞬にして勢いよく飛び立ちました。
遺骨が入ったロケットが空高く登っていきます。
さらにさらに、高く、高く登っていきます・・・。
「パァァァーーンッッ」
・・・・・・
それで終わりです。
日本では、おおよそ考えられないような散骨の方法にとても驚きましたが、この潔さはなんとも天晴だと感じました。
もう1回の散骨は、バンコクで立ち会いました。
チャオプラヤー川での散骨でした。
川に撒くという形式の散骨は、おそらく散骨の方法としては、ごく一般的なかたちなのではないかと思います。
それゆえ、それほどの驚きはありませんでした。
しかし、その美しい姿と清々しさには感動を覚えました。
・・・故人様とそのご家族様には、失礼かつ不適切な表現なのかもしれませんが、このように表現させていただくことをどうかお許しいただきたいと思います。・・・
私が当時止住していたお寺の住職のお付きとして、ある信者さんのお宅があるバンコク近郊の街へ同行させていただいた時のことです。
聞けば、今から川で散骨をするのだと言います。
住職と私と信者さんの家族、そして遺骨を乗せた船。
その船が船着き場をゆっくりと出発しました。
家族や親族とおぼしき人たちの表情から、おそらくは親しい間柄であった方の遺骨なのであろうことがすぐにわかりました。
チャオプラヤー川が海に注ごうとする、川幅が広くなった河口近く。
船が川の真ん中あたりに差し掛かろうとしたその時。
「ここで。」
家族の誰かから声がかかりました。
船が止まりました。
波もなく、とても静かな水面でした。
急に家族や親族たちが何やらごそごそと動き始めました。
そっと遺骨が入った器がとり出されました。
そして、ゆっくりとチャオプラヤー川の水面に、ひとつひとつ遺骨が沈められていきました。
最後のひとつを沈め終えると、準備されていた色とりどりの花びらが水面に撒かれました。
ゆるやかに流れる水面に、静かに浮かぶ色とりどりの花びらたち。
川の流れに沿って、ゆらりゆらりと花びらが流れていきます。
さらに、その花びらを飾るかのように、最後に器からまかれた遺骨の粉が流線を描いていました。
白い粉と花びらが、だんだんと船から遠ざかって行きました。
家族の誰かがぽつりとつぶやきました。
「きれいね。」
みんな、とてもおだやかな表情でした。
この散骨の風景・・・
とてもおだやかで、とても軽やかな家族と親族たちの顔。
今も忘れることができません。
※実際にタイで行われた散骨の様子です。
許可を得て掲載させていただきました。
ロケット花火の散骨にしても、チャオプラヤー川への散骨にしても、不思議と悲しいという雰囲気は一切ありませんでした。
悲しいのではないのです。
美しいのです。
そして、とても気分が軽いのです。
私には、そのように見えました。
その姿に、私は、爽やかさと清々しさと家族と親族の前向きな気持ちを感じ、とても感動を覚えました。
この感覚は、一体何なのでしょうか?
仏教国だからでしょうか?
私も、こんな自然体でありたい・・・そのように思いました。
※実際にタイで行われた散骨の様子です。
許可を得て掲載させていただきました。
(『タイで出会った散骨』)
※実際にタイで行われた散骨の様子を撮影した写真を掲載させていただきました。
写真の掲載を快諾いただきましたことを心より感謝申し上げます。
タイで“瞑想”修行
日本で“迷走”修行
タイの森のお寺で3年間出家
“瞑想”から“迷走” そして“瞑想”へ
自己を探究していくお話を
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